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仙台高等裁判所 平成3年(行コ)12号 判決

控訴人

丸屋地所株式会社

右代表者代表取締役

杉浦金四郎

右訴訟代理人弁護士

荒木貢

被控訴人

盛岡市長

太田大三

盛岡地区広域行政事務組合消防長

新藤威

盛岡市

右代表者市長

太田大三

右三名訴訟代理人弁護士

田村彰平

主文

一  原判決中、被控訴人盛岡市長、同盛岡地区広域行政事務組合消防長に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人盛岡市長に対する不作為違法確認の請求にかかる訴えを却下する。

控訴人が被控訴人盛岡市長に対して別紙同意及び協議申立目録一、三ないし五記載の書面をもってなした申立のうち同意申立部分につき、同四の申立に関する処分の取消を求める請求にかかる訴えを却下し、同被控訴人がなした別紙不同意目録一、三、五記載にかかる不同意処分を取り消す。

控訴人が被控訴人盛岡市長に対して別紙同意及び協議申立目録一、三ないし五記載の書面をもってなした申立のうち協議申立部分に関する処分の取消を求める請求にかかる訴えを却下する。

被控訴人盛岡市長に対する、別紙同意及び協議申立目録四記載の書面をもってなした同意申立に対し同意を求める請求、並びに同目録一、三ないし五記載の書面をもってなした協議申立に対し協議を求める請求にかかる訴えを却下する。

2  被控訴人盛岡地区広域行政事務組合消防長に対する不作為違法確認及び処分取消の請求にかかる訴えを却下する。

被控訴人盛岡地区広域行政事務組合消防長に対する同意及び協議を求める請求にかかる訴えを却下する。

二  控訴人の被控訴人盛岡市に対する控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、控訴人と被控訴人盛岡市長との関係では第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、その一を同被控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人盛岡地区広域行政事務組合消防長との関係では第一、二審を通じて、全て控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人盛岡市との関係では控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人

1  原判決を取り消す。

2(一)  被控訴人盛岡市長及び同盛岡地区広域行政事務組合消防長に対する請求

(第一次的請求)

(1) 控訴人と被控訴人盛岡市長との間で、控訴人が同被控訴人に対し、別紙同意及び協議申立目録一、三ないし五記載の書面をもってなした同意及び協議申立に対し、同被控訴人が何らの処分もしないことが違法であることを確認する。

(2) 控訴人と被控訴人盛岡地区広域行政事務組合消防長との間で、控訴人が同被控訴人に対して別紙同意及び協議申立目録二記載の書面をもってなした協議申立に対し、同被控訴人が何らの処分もしないことが違法であることを確認する。

(第二次的請求)

(1) 控訴人が被控訴人盛岡市長に対して別紙同意及び協議申立目録一、三ないし五記載の書面をもってなした同意及び協議申立に対し、同被控訴人がなした別紙不同意目録一、三ないし五記載の同意及び協議しない旨の処分を取り消す。

(2) 控訴人が被控訴人盛岡地区広域行政事務組合消防長に対して別紙同意及び協議申立目録二記載の書面をもってなした協議申立に対し、同被控訴人がなした別紙不同意目録二記載の同意及び協議しない旨の処分を取り消す。

(第三次的請求)

(1) 被控訴人盛岡市長は、控訴人に対し、控訴人が別紙同意及び協議申立目録一、三ないし五記載の書面をもってなした同意及び協議申立に対し、同意及び協議せよ。

(2) 被控訴人盛岡地区広域行政事務組合消防長は、控訴人に対し、控訴人が別紙同意及び協議申立目録二記載の書面をもってなした協議申立に対して同意及び協議せよ。

(二)  被控訴人盛岡市に対する請求

被控訴人盛岡市は、控訴人に対し、七四五八万円及び内金六七八〇万円に対する平成三年三月三一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一争いのない事実

1  控訴人は、盛岡市上田字黒岩地区の山林10万8932.04平方メートルを対象地として開発行為(以下「本件開発行為」という。)をするため、都市計画法(昭和四三年法一〇〇号)二九条(以下、都市計画法の条文は単に条文のみを掲げる。)所定の開発行為許可申請の事前準備として、本件開発行為に関係がある公共施設の管理者であり、かつ、本件開発行為又は開発行為に関する工事により設置される公共施設を管理することになる被控訴人盛岡市長及び同盛岡地区広域行政事務組合消防長(以下「被控訴人消防長という。)に対し、平成二年二月一六日付けで、三二条に基づき、別紙同意及び協議申立目録一ないし五記載の同意及び協議(以下「本件一ないし五の申立」又は「本件各申立」という。)を求めた。

2  被控訴人盛岡市長、同消防長は本件各申立を受理したが、別紙不同意目録記載のとおり、同意できない(協議に関しては協議しない旨を含む。)と回答した(以下「本件一ないし五の不同意回答」又は「本件各不同意回答」という。)。その理由は、本件一の不同意回答は、盛岡広域都市市街化区域及び市街化調整区域の整備・開発又は保全の方針(昭和五九年一一月一六日付け岩手県告示第一〇三三号、以下「整備・開発・保全の方針」という。)に適合しないこと、同五六年三月に岩手県が策定した盛岡広域都市計画基本計画(以下「基本計画」という。)において、自然緑地として保全に努める地区とされておりこれに適合しないというもの、本件二の不同意回答は、本件開発は位置的に「基本計画」に整合しない旨周知しているというもの、本件三ないし五の不同意回答は本件一のそれと同じ理由であった。右「整備・開発・保全の方針」に適合しないとの趣旨は、本件開発対象地は市街地の無秩序な拡大を防ぎ、また市街地を取り囲む縁辺部の景観を構成している外郭緑地としての丘陵緑地として位置付けられているというものである。

3  控訴人は、平成二年九月四日、岩手県知事に対して、本件開発行為の許可申請をしたが、同三年一月二一日、①開発行為許可申請書の記載事項としての資金計画を定めた資金計画書が添付されていない、②開発行為許可申請書に添付すべき(1)三二条に規定する同意を得たことを証する書面、(2)同条に規定する協議の経過を示す書面、(3)設計図を作成した者が都市計画法施行規則一九条に規定する資格を有する者であることを証する書類がないとの理由で、不受理となった。

二請求の概要

被控訴人盛岡市長、同消防長に対する第一次的請求は、控訴人の本件各申立に対し、被控訴人盛岡市長及び同消防長がなした本件一ないし五の不同意回答は処分に当たらないとして、何らの処分をしないことの不作為の違法確認を求めるというものであり、第二次請求は、本件一ないし五の不同意回答は処分に当たるとして、その取消を求めるというものであり、第三次請求は、本件一ないし五の申立に対し、同意及び協議の義務があるとして、その履行を求めるというものであり、被控訴人盛岡市に対する請求は、被控訴人盛岡市長に本件一、三ないし五の申立につき違法な取扱があったなどとして、国賠法一条に基づく損害賠償を求めるというものである。

1  控訴人の主張

(一) 三二条の同意及び協議義務

(1) 三二条の趣旨は、開発行為等によって設置される公共施設は、その工事完了の公告の翌日において、その公共施設の存する市町村の管理に属するものとすると定められている(三九条)ため、開発許可の審査をする前に、開発許可の申請をしようとする者と公共施設の管理者となるべき市町村との間で協議をさせることにより、開発行為によって設置される公共施設の管理の適正等を期する点にある。三二条の右趣旨からすると、公共施設の管理者に私人が含まれている場合があるとしても、その私人を含めて行政庁や私人に同意すべき義務があるかどうかが判断されるべきであり、開発行為を申請しようとする者に公共施設の管理者の同意を得、その者との協議を義務付けているのは適法な同意及び協議の申立がなされた以上、当然に公共施設の管理者には同意及び協議義務があることを前提としているからに他ならない。

(2) 殊に、控訴人は被控訴人盛岡市長及び同消防長と事実上の協議を済ませており、同意すること、協議したことの正式な書面の発行だけがなされないでいるものである。右被控訴人らは平成二年二月一六日付けで本件各申立にかかる書面に受理印を押して、右控訴人代理人に交付している。右受理によって、被控訴人らは同意及び協議の意思をもったことを意味するものであり、その後になって三二条の趣旨を全く離れた理由によって不同意及び不協議の回答をなすことは控訴人の正当な期待を裏切るものであって禁反言に反し許されない。

(二) 三二条の不同意及び不協議の処分性

被控訴人盛岡市長、同消防長が同意をしないことは、開発許可を申請している控訴人の財産権を侵害又は制限するものであり、かつ、行政庁である岩手県知事が判断すべき事項である「基本計画」及び「整備・開発・保全の方針」との適合性を判断しているものであり、行政庁の処分と解さなければならない。また、本件各不同意回答は、三二条に基づく申立に対して、同条の趣旨を全く無視してなされた不同意であり、手続拒否処分ないし実体的拒否処分であるから処分性がある。更に、岩手県知事は、被控訴人盛岡市長、同消防長との三二条の協議が整わないことも理由として開発許可申請を不受理としているのであるから、本件各申立に対する協議がなければ、控訴人の財産権が侵害されたことになることは明らかであり、処分性がある。

被控訴人らは、開発行為を認める余地がない場合に三二条の同意及び協議義務はないと主張するが、開発行為を認める余地がないかどうかは開発審査会において専門家により判断され、県知事の判断に委ねられるものであり(三四条一〇号イ)、被控訴人盛岡市長、同消防長が判断すべきことではない。本件開発対象地は開発の不適地ではなく、岩手県から控訴人に対し、昭和六三年一一月四日付けでなされた開発を断念するようにとの指導は被控訴人盛岡市の考えに基づき作成されたに過ぎない。

(三)(1) 本件不同意及び不協議の憲法二九条一項、三項違反

被控訴人盛岡市長、同消防長の本件各不同意回答の理由は、本件開発行為が「基本計画」及び「整備・開発・保全の方針」に違反するというものである。法律にも条例にもよらず、自然緑地ないし景観の保存を理由に三二条の同意及び協議をしないことは、何らの損失補償もせず、土地の買い入れもしないで本件開発行為を不可能にするものであって、三二条、都市緑地保全法五、七、八条に違反するとともに、憲法二九条一項、三項に違反する。

(2) 憲法三一条違反

控訴人は、三二条に基づき適法に本件各申立をなし、被控訴人盛岡市長、同消防長も右申立にかかる書面を受理したにも拘わらず、同条の趣旨を離れ、同条の運用のために出されている通達も無視して、基本計画という単なるプラン、あるいは告示である「整備・開発・保全の方針」に基づき自然緑地ないし景観の保存という全く別個の理由をもって不同意、不協議とした。被控訴人盛岡市長、同消防長の三二条の運用は、何ら具体的な基準もなく不明確であり、予測不可能であり、場当たり的なものであって、独断的な運用であるから、憲法三一条に違反する。

(3) 信義則違反

本件各申立は、正式に受理されている。開発行為をなそうとする者にとっては、同意・協議申立書面が正式に受理された以上は、被控訴人盛岡市長、同消防長から三二条の趣旨に基づいた回答がなされるであろうと期待するのは当然のことであり、このような期待は正当なものとして法的に保護されなければならない。しかるに、被控訴人盛岡市長、同消防長は、三二条の趣旨をはなれて全く別個の理由に基づいて不同意・不協議の回答をした。これは、控訴人の正当な期待を不当に裏切るもので信義則に違反し違法・無効である。

(4) 都市計画法違反

三二条の趣旨は、前記(一)(1)のとおりであり、そこには岩手県知事の判断事項である三四条一〇号イの判断は入っていないし、そもそも、三四条一〇号イには、緑地の保存や景観の保存の基準は入っていない。本件各不同意回答は、被控訴人盛岡市長、同消防長が、同意及び協議を一切、あるいはそもそも開発許可が認められない土地だという形で、控訴人による開発行為を一切封じてしまったものであり、違法である。

(四) 作為義務

処分性について述べたことからすると、本件各申立に対して被控訴人盛岡市長、同消防長には同意・協議の作為義務があるというべきである。控訴人は民法四一四条二項但書により同意及び協議を求める。

(五) 損害賠償請求

控訴人は、本件各申立に対する同意を得、協議するため、昭和六三年三月二九日以来一四二回にわたって控訴人の本店所在地の長野県松本市から盛岡市に赴き、被控訴人盛岡市の担当職員と協議してきたが、同市担当職員は法的な根拠なく開発行為を断念させるよう不誠実な対応に終始した。そして、被控訴人盛岡市長は、本件一、三ないし五の申立に対して、正式に受理しながら、三二条の趣旨を全く離れて法的な根拠なく同意及び協議をしないという違法な取扱をなした。この結果、控訴人の開発行為は事実上不可能となった。控訴人は、本件開発行為許可申請に対する書類作成費用として五〇〇〇万円、交通費として六〇〇万円及び宿泊費として一八〇万円の支出を余儀なくされており、また精神的苦痛を被っているからその慰謝料としては一〇〇〇万円が相当である。そして、控訴人は本件について訴訟委任をした弁護士との間で、認容された金額の一割(全額認容の場合は六七八万円)を報酬とすることを合意している。遅延損害金は不法行為のなされた後の日である平成三年三月三一日から支払済まで求める。

2  被控訴人ら

(一) 三二条の同意及び協議の性格

三二条で開発許可を申請しようとする者が、あらかじめ開発行為に関係のある公共施設の管理者の同意を得なければならないのは、開発行為に関する工事によって、既存の公共施設の機能を損なうことがないようにし、また変更を伴う場合は適正にそれを行う必要があるからである。また、開発行為により設置される公共施設を管理することとなる者との協議を要するとされるのは、開発行為によって設置される公共施設の管理の適正を確保するためである。そして、開発行為許可申請書にあたり公共施設管理者の同意ないし協議をすべきことを規定した理由は、例外的にしか許可の対象とはならない市街化調整区域において開発行為をすることを相当と認めて許可する場合に、あらかじめ乱開発を防止し、秩序ある開発行為を行わせるための手段であることは明らかである。控訴人が開発行為の対象としている土地は、七条に定める市街化調整区域であるのみならず、「基本計画」において自然緑地として積極的に保全し、「整備・開発・保全の方針」において、市街地の無秩序な拡大を防ぎ、また市街地を取り囲む縁辺部の景観を構成している外郭緑地としての丘陵緑地として位置付けられており、岩手県土木部都市計画課長から控訴人に対し、昭和六三年一一月四日付けで開発を断念するよう指導をしているところである。被控訴人盛岡市長、同消防長は、公務員としてその職務の執行にあたり法令及びこれに基づく岩手県の都市計画決定を遵守する義務があり、土地計画法による市街化調整区域の区分、岩手県の都市計画決定としての「基本計画」、「整備・開発・保全の方針」により開発不適地とされている土地につき、三三条の技術的な問題に立ち入るまでもなく、本件開発行為又はこれに関する工事により設置される公共施設の管理に関して同意、協議すべき義務はない。

(二) 同意ないし協議の処分性

三二条の同意ないし協議は、単なる事実行為であり、公権力の主体として行うものではない。公共施設であっても私人が所有管理する場合もあり、地方公共団体が公共施設管理者となっていても私人と全く同様の立場に立つものである。したがって処分性はない。

(三) 損害賠償請求

控訴人の本件開発行為は、対象地が市街化調整区域であること及び被控訴人盛岡市及び岩手県の都市計画において容認できないものであり、被控訴人盛岡市長において違法行為もないので損害賠償の理由もない。

第三証拠関係〈省略〉

第四当裁判所の判断

一〈書証番号略〉、当審証人太田昭、同藤原功及び当審における控訴人代表者尋問の結果(一部)によると、次の事実を認定することができ、控訴人代表者尋問の結果中右認定に反する部分は前記採用証拠に照らし採用しない。

1  本件開発対象地は、盛岡駅から北北東約一〇キロメートルの地点、標高二六二メートルの黒岩山の山腹にある。同土地は、昭和三九年に、第百商会が宅地として造成を開始したが、同商会が倒産したため、造成が中途で放置されたものであり、同商会から譲り受けた約二〇名の者が所有していた。

2  都市計画法の施行にともない、本件開発対象地は市街化を抑制すべき市街化調整区域となったが、既存宅地区域とされた。又、緑ケ丘、黒石野の市街地に隣接していることと、半造成のため土砂の流出がありその危険を解消するために、前記地権者は開発の要望をもっていた。

3  控訴人代表者は、叔父山岡通弘が本件開発対象地のうち約一万五〇〇〇坪を取得したこともあり、開発を企図し、昭和六三年三月二九日から盛岡市役所を訪れ、開発の打診を行っていたが、被控訴人盛岡市都市計画部都市計画課担当職員は、本件開発対象地は市街化調整区域内にあり、「基本計画」で自然緑地として、「整備・開発・保全の方針」で丘陵緑地として位置付けられているとして、開発を断念するよう指導した。控訴人代表者は、同年五月頃から岩手県(土木部都市計画課)と交渉し、同年九月一日に事前指導願いを出したが、同年一一月四日、同県土木部都市計画課長は、被控訴人盛岡市と協議したうえ、控訴人に対し、「本件開発は市街化調整区域であるから三四条各号に該当する必要があるところ、同条一ないし九号、一〇号ロには該当せず、一〇号イについても、『整備・開発・保全の方針』及び『基本計画』に適合しない」から、開発許可申請をしても許可される見込みはないので断念するよう通知した。しかし、同県土木部都市計画課長は、右通知の後、控訴人代表者に架電し、被控訴人盛岡市が駄目と言っているのを県がよいとは言えない、被控訴人盛岡市と充分協議するようにと伝えた。

4  控訴人代表者は、この頃、盛岡市会議員谷藤を介して被控訴人盛岡市と交渉をした。被控訴人盛岡市は、交渉に応じられない理由として、①過去に他の業者の開発申請を拒否したことがある、②「基本計画」を変更する必要がある、③道路用地に問題がある、この問題点が解消されれば被控訴人盛岡市としては反対する立場にはないから岩手県とよく協議するよう伝えた。控訴人代表者は、その後、平成元年一〇月に、被控訴人盛岡市の桑島助役と面会し、三二条の申請に必要な添付書類を作成する旨伝えた。

5  控訴人代表者は、その後、四か月の期間と相当の費用をかけて、三二条の申請に必要な設計図等の添付書類を作成し、本件各申立にかかる書面を平成二年二月一三日に被控訴人盛岡市に持参した。被控訴人盛岡市担当職員は受取を拒否したが、結局預かることとなり、同月一六日、受理することを伝え、同日付けで受理された。なお、本件二の申立は、協議申立のみであり、同意申立はなされておらず、本件三の申立は既存の末流水路の改修工事にかかるもので新しい水路の設置に関するものではなく、本件四の申立は、新設の公園に関するもののみである。被控訴人盛岡市長、同消防長は本件各申立を受理したが、本件各不同意回答した。

以上の事実を認定することができる。

なお、控訴人は、控訴人において被控訴人盛岡市長、同消防長と事実上の協議を済ませており、協議したこと、同意することの正式な書面の発行だけがなされないでいる旨主張するが、右主張を認めるに足る証拠はない。

二前記一の事実及び当事者間に争いのない事実に基づいて検討する。

1  三二条の同意及び協議の処分性

(一) 三二条は「開発許可を申請しようとする者は、あらかじめ、開発行為に関係のある公共施設の管理者の同意を得、かつ、当該開発行為又は当該開発行為に関する工事により設置される公共施設を管理することとなる者その他政令で定める者と協議しなければならない。」と、都市計画法施行令(昭和四四年六月一三日政令一五八号、以下「政令」という。)二三条は「開発区域の面積が二十ヘクタール以上の開発行為について開発許可を申請しようとする者は、あらかじめ、次に掲げる者(開発区域の面積が四十ヘクタール未満の開発行為にあたっては、第三号及び第四号に掲げる者を除く。)と協議しなければならない。一 当該開発区域内に居住することとなる者に関係がある義務教育施設の設置義務者 二 当該開発区域を給水区域に含む水道法第三条第五項に規定する水道事業者 三 当該開発区域を供給区域に含む電気事業法第二条第二項に規定する一般電気事業者及びガス事業法第二条第二項に規定する一般ガス事業者 四 当該開発行為に関係がある鉄道事業法による鉄道事業者及び軌道法による軌道経営者」と規定している。このように、開発行為に関係のある公共施設の管理者の同意が要求されているのは、既存の公共施設の機能を損なわないようにし、また、変更などを伴うときは適正に変更することが必要であるからであり、協議が要求されるのは、新たに開発行為により設置される公共施設は、その工事完了の公告の翌日に、その公共施設のある市町村の管理に属することとなるため(三九条)、開発許可の審査をする前に、開発許可の申請をしようとする者と公共施設の管理者となるべき市町村との間で協議をさせることにより、開発許可の手続及び開発行為を円滑に進行させ、開発行為によって設置される公共施設の管理の適正を期するためであり、同政令二三条による協議が要求されるのは、大規模な開発行為の施行が義務教育施設、水道、電気、ガス又は鉄軌道施設について新たな投資を必要とする等これらの施設の整備計画に影響を及ぼすので、あらかじめ開発行為を行おうとする者とこれらの施設の管理者との事前の話し合いを行わせて、施設の管理者が当該開発行為の施行に合わせて適時適切に施設の設備を行いうるようにするという趣旨から定められたものであると解される。そして、右公共施設とは、道路、公園、下水道、緑地、広場、河川、運河、水路及び消防の用に供する貯水施設とされている(四条一四号、政令一条の二)が、これらは、都市計画法上都市施設として位置付けられていること(一一条、政令五条)、都市計画において定められるべき施設であり(四条五項、六項)、都市計画において、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好の都市環境を保持するように定めること(一三条一項四号)とされていること、当該開発行為の許可により影響を受ける土地、建築物、工作物の所有権等の私的権利は開発行為の許可によっても侵害されるものではなく、三三条一項一四号が、右私的権利を有する者の相当数の同意を知事の許可の要件としていることからすると、三二条の公共施設には都市計画と無関係で、管理法を持たない公共施設の外見を有するようなものは含まれない(例えば、一般私人が自らの費用負担で開設し、その道路敷に対して所有権・借地権を有し、その維持・管理について権原者の自由に任せられているいわゆる私道は含まれない。)と解するのが相当である。

そして、右公共施設の管理者としては、開発許可がなされた場合は、その後に、既存の公共施設の管理権に基づき、例えば、道路、河川の工事の承認等の行政処分、その他の管理行為をすることとなるのであるが、三二条の同意は、このような管理権の発動をあらかじめ暫定的な審査に基づき、事情変更の保留の下に拘束力を持って将来予定する性格を有すると解され、この暫定的な審査も、道路法、河川法、下水道法等の公共施設管理法に基づくものであるから、適切な管理をするうえで広範な裁量権が与えられているとしても、私的所有権のような無限定なものではあり得ず、三二条の同意をすべきか否かについては、右同意は、既存の公共施設の機能を損なわないようにし、また、変更などを伴うときは適正に変更することが必要であることに鑑みると、開発行為により既存の公共施設の機能が損なわれない場合は同意すべき義務があるというべきであって、当該公共施設の機能の維持とは全く関係のない理由で同意を拒否することはできないものと解すべきである。また、協議については、開発許可について都道府県知事はその申請があったときは、遅滞なく、許可又は不許可の処分をしなければならないこと(三五条一項)、その申請にかかる開発行為が開発許可の基準に適合しており、かつ、その申請の手続が法令に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならない(三三条一項)と定められていることからすると、右開発許可の申請をしようとする者からその開発行為等によって設置される公共施設について協議の申し出を受けた公共施設管理予定者としても、遅滞なくその協議に応じなければならない義務があるものと解すべきであり、協議の内容も公共施設の管理の適正を期するという観点からなすべきであって、右観点とは無関係の事由を理由として協議を拒否することはできないというべきである。

被控訴人盛岡市長は、控訴人の本件一、三ないし五の申立(本件三の申立は既存の末流水路の改修工事にかかるもので新しい水路の設置に関するものではなく、本件四の申立は、新設の公園に関するもののみであるから、本件三の申立は、同意のみを求める申立で協議を求めるものではなく、本件四の申立は、協議のみを求めるもので同意を求めるものではないと認められる。)に対し、「整備・開発・保全の方針」及び「基本計画」に適合しないとして本件一、三ないし五の不同意の回答をしたものであるが、その内容は、本件開発対象地は市街地の無秩序な拡大を防ぎ、また市街地を取り囲む縁辺部の景観を構成している外郭緑地としての丘陵緑地として位置付けられていること、自然緑地として保全に努める地区とされていることというものであって、市街化調整区域に関する開発について開発審査会が審議すべき事項を先取りしているもので、これは当該公共施設の機能の維持とは全く関係のない事由であり、これは本来拒否できない理由に基づき同意及び協議を拒否をしたもので違法であるといわざるを得ない。しかして、右三二条に基づく公共施設管理者の同意、不同意について、都市計画法は申請手続、同意不同意の要件、通知、不服申立の規定を設けてはいないが、公共施設の管理者が同意を拒否すると、開発行為者の開発許可申請は不適法となり(三〇条二項)、開発行為者は開発対象地に対する開発をすることができなくなる立場に置かれることとなり、開発行為者が本来有する開発をするという権利を侵害されることになる。したがって、公共施設管理者の不同意の意思表示は、国民の権利義務又は法律上の利益に影響を及ぼす性質を有する行政庁の処分に該当すると解するのが相当である。被控訴人消防長は、本件開発は位置的に「基本計画」に整合しない旨周知しているという理由で協議を拒否したものであり、これも、公共施設の管理の適正を期するという観点からのものではなく違法な協議拒否と解される。しかし、協議については、三〇条二項は協議が整うことを開発許可申請の要件とはしてなく、開発許可の申請書に協議の経過を示す書面の添付を要求しているのみであり、開発行為者が誠実に協議の申し出をしたにもかかわらず、公共施設管理予定者がこれに応じなかったとしても、その経過を記せば三〇条二項の協議の経過を示す書面といえると解されるから、公共施設管理予定者が協議に応じないことは開発許可申請を妨げるものではなく、行政庁の処分とはいえない。

2  以上によると、本件一ないし五の申立は、本件一、五の申立は同意及び協議の申立、本件二、四の申立は協議のみの申立、本件三の申立は同意のみの申立と認められるところ、本件一、三、五の不同意回答のうち同意に関する部分については処分性があるが、本件一、二、四、五の不同意回答のうち協議に関する部分に関しては処分性はないこととなる。すると控訴人の不作為違法確認の請求に関する訴えについては、協議に関する部分に関しては処分性がないから不適法であり(本件三の申立は協議に関する申立ではないから、行政庁のその不作為もありえず、これに対する不作為違法確認の訴えも不適法である。)、本件一、三、五の同意に関する部分については処分性のある回答がなされているから、行政庁の不作為ということはありえず、不適法というべきである(本件二、四の申立は同意を求めるものではなく、行政庁のその不作為もありえず、これに対する不作為違法確認の訴えも不適法である。)。結局、控訴人の不作為違法確認の請求(第一次的請求)にかかる訴えは全て不適法である。

次に、処分取消の請求にかかる訴えについては、本件一ないし五の申立のうち、同意に関する本件一、三、五の不同意回答については処分性があり、右不同意の理由は、「整備・開発・保全の方針」及び「基本計画」に適合しないとするものであり、本来不同意とはできない理由で同意を拒否したもので違法であるといわざるを得ない。したがって、この部分に関する控訴人の主張は理由がある。しかし、本件二、四の申立について同意を求める申立はないから、その不同意ということもありえず、また、本件一、二、四、五の申立のうち、協議に関する部分は処分性が認められず、その取消を求めるのは不適法であり、さらに、本件三の申立については協議を求める申立はないから、その取消を求めることはそもそも不適法である。

3  控訴人の義務履行を求める訴え(第三次的請求)については、被控訴人盛岡市長に対する本件一、三、五の申立に関する三二条にかかる同意に関しては控訴人の第二次的請求は認容すべきと判断するから、本件四の申立に関する同意及び本件一、三ないし五の申立に関する協議の意思表示を求める部分につき判断する。控訴人は、右同意及び協議の意思表示を民法四一四条二項但書により行政庁である被控訴人盛岡市長に対して求めるというのであるが、控訴人の請求からすると被告は行政主体であるべきであり、抗告訴訟以外に当事者能力がない被控訴人盛岡市長ではありえない(なお、三二条に協議が要求されるのは、開発許可の手続及び開発行為を円滑に進行させ、開発行為によって設置される公共施設の管理の適正を期するためであり、このような目的のために民法四一四条二項但書の適用を認めるのは相当ではない。また、本件三の申立は同意に関するものであり、同意申立に対して協議を求めることは失当であり、本件四の申立は協議に関するものであり、協議申立に対して同意を求めることも同様である。)。したがって、控訴人の右請求は不適法というべきである。また、控訴人は、被控訴人消防長に対しても同法四一四条二項但書により同意及び協議を求めているが、これが不適法であることは被控訴人盛岡市長の場合と同様である(なお、協議申立に対して同意を求めること自体も失当である。)。

4  国賠法に基づく請求

被控訴人盛岡市長は、控訴人の三二条に基づく申立に対し、本来、不同意とはできない理由で不同意及び協議拒否をしたものであり、違法な職務の執行である。しかしながら、公共施設管理者(管理予定者)に同意及び協議すべき法的義務があるかについては、都市計画法には、公共施設管理者(管理予定者)の同意及び協議義務を明記した条項はなく、私人が公共施設管理者(管理予定者)に含まれると解される余地もあり、控訴人が本件各申立をした当時、右文理解釈から、三二条の同意及び協議は公権力の行使としての性格を有しないとの同条の同意及び協議の法的性格についての唯一の裁判例(東京地方裁判所昭和六三年一月二八日判決・判例時報一二七二号九三頁)も存在しており、これを支持する判例評釈(ジュリスト一九八八年四月一五日号五四頁)もあったこと、被控訴人盛岡市長は右裁判例を当然知っていたと推認され、被控訴人盛岡市長が右不同意及び協議を拒否をするについて、このように、相当の根拠のある法律解釈による見解に立脚して公務を執行したものと認められるから、右執行が違法であるものの、過失があったものとまでは判断することはできない。したがって、控訴人の国賠法一条に基づく請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三以上によると、被控訴人盛岡市長に対する控訴人の処分取消請求に関する訴えを全て却下し、被控訴人盛岡市長及び同消防長に対して同意及び協議を求める請求を適法としたうえ棄却した原判決は失当であり、右失当とされた部分を変更し、同盛岡市に対する控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官豊島利夫 裁判官田口祐三 裁判官菅原崇)

別紙同意及び協議申立目録

一、平成二年二月十六日付け、被告盛岡市長に対する下水道(汚水)に関する協議同意書(同日付け盛岡市建設課第四―七号)

二、同日付け被告盛岡地区広域行政事務組合消防長名久井務に対する消防水利に関する協議申出(同日付け盛岡消防署第四三七一号)

三、同日付け被告盛岡市長に対する水路に関する協議同意書(同日付け盛岡市都市河川課第一―二〇号)

四、同日付け被告盛岡市長に対する公園に関する協議・同意書(同日付け盛岡市都市計画部公園緑地課第二―五号)

五、同日付け被告盛岡市長に対する道路に関する協議書(同日付け盛岡市建設部道路管理課第一七―一二号)

別紙不同意目録

一、被告盛岡市長が原告に対して平成二年三月二六日付け元盛建第四―七号を以てなした同意できないとの処分。

二、被告盛岡地区広域行政事務組合消防長名久井務が原告に対して同月二八日付け盛広盛消収第四三七一号を以てなした同意できないとの処分。

三、被告盛岡市長が原告に対して同月二九日付け元盛河第一―二〇号を以てなした同意できないとの処分。

四、被告盛岡市長が原告に対して同月二八日付け元盛緑第二―五号を以てなした同意できないとの処分。

五、被告盛岡市長が原告に対して同月二九日付け元盛道管第一七―一二号を以てなした同意できないとの処分。

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